← アフターパーティー・プロトコル

第2章ハウス・ルール

Nyx · 896文字 · 日本語

四十階へ向かうエレベーターにボタンはなかった――真鍮のテンキーと、冷えたシャンパンの匂いだけ。一時間前、見知らぬ誰かがアイライナーで手首に書き残した六桁を、アドリアンは打ち込んだ。階下ではローンチパーティーの喧騒が渦巻いている。扉は金庫のように閉ざされ、街が足元へ沈んでいった。

二十九歳。引き返せる程度には素面だった。そして今夜の結末は、あのアイライナーの文字が乾く前に、もう決めてあった。

ペントハウスは黒大理石と、雨の筋が走る一面のガラスへと開けていた。四十階下では、街が金色に燃えながら、こちらには何の関心も払わずにいる。部屋の中央には銀髪の女。ミッドナイトブルーのタキシードをまとい、視線ひとつ落とさずにトランプを切っていた。

「携帯を」と女は言い、銅の鉢を彼のほうへ傾けた。中には四台の携帯が伏せて眠っている。「ここに置いていくの。起こすのは、帰るときだけ」

「帰らなかったら?」

「なら朝まで眠らせておくこと」。その微笑みが、言葉に値札を付けた。「わたしは〈ハウス〉。名前ではないわ。今夜ここでは誰も名を持たない――ルールその一よ」

アドリアンは鉢に携帯を落とした。カチン、という音が、決断の音に聞こえた。

四人の客が部屋の四隅を占め、グラスを手にしていた。ベルベットのジャケットの男はレコード棚を尋問し、ダイヤのピアスの女は何もないところで笑っている。そして窓辺には――

窓辺には黒いドレスの長身の女が立ち、外科医が傷口を見るような目で雨を見ていた。その後ろでは、緑のシルクの女がヒールを脱いで座り、膝の上にスチールのスキットルを危なげなく載せている。鼻筋を横切るそばかすは、企みを秘めた星座のようだった。

緑のシルクがスキットルを彼に掲げた。「来たのね」と彼女は言った。「来ないほうに百ドル、ハウスと賭けてたのに」

手首のアイライナーの数字がむず痒くなった。あれは彼女だったのか――階下での十一分間、悪戯めいた見事な筆跡、そして消えた。「誰なのか、教えてくれなかった」と彼は言った。

「ルールその一」。彼女は飲んだ。「十時前にルールを破ったことは一度もないの」。時刻はとうに十一時を回っていた。計算は彼に任された。

「カードを」とハウスが宣言し、大理石のバーの上へ扇形にデッキを広げた。「引いた札が、日の出まであなたの正体。さあ、引いて」

ベルベットのジャケットはクラブのジャックを引き、満足げだった。ダイヤのピアスはダイヤの九を引き、満足げではなかった。長身の女は二本の指で大理石から自分の札を剥がした。スペードのクイーン。ドレスが似合うのと同じように、その札は彼女に似合った――鞘に刃が収まるように。

緑のシルクは無造作に自分の札をめくった。ハートのクイーン。「でしょうね」と彼女は言った。

アドリアンは最後に引いた。ハートのキング。部屋の空気が動いた。スペードのクイーンが窓辺から振り返り、その視線がハートのクイーンの視線と交わった。一つのテーブルに並べて置かれた二本のナイフのように。

「クイーンが二枚」とハウスは言い、残りのデッキをポケットへ滑り込ませた。「キングが一枚。このデッキにも言い分があるようね」

彼女は残りのルールを、寝物語のように配っていった。「ルールその二、携帯――もう済んだ。ルールその三、真夜中まで何も始めない。ボタン一つ、ファスナー一つ動かさない。飢えを育てなさい。真夜中がその代金を払ってくれる。ルールその四、触れる前に訊くこと。毎回、どの触れ方でも。今夜、訊くことは税金じゃない――訊くことこそがゲームよ。ルールその五、エレベーターは一晩中動いていて、何も詮索しない。ルールその六、四十階より上で起きたことは、四十階より上に置いていく」

「真夜中に何が起きるんだ?」とジャックが訊いた。

「明かりが消えるの」とハウスは言った。「その先は、志願者だけの領域よ」

それからの一時間は、カクテルドレスをまとった前戯だった。スペードのクイーンが部屋を横切り、彼の呼気の届く距離で止まって、手首に目を落とした。「いい?」。彼が頷くと、彼女は親指でアイライナーの暗号を一桁ずつ拭い消した。指先の腹が硬い。タコだ。左手だけの。

「チェロよ」と彼女は言った。その計算までも見抜いて。「二十年。手というのは、何を練習してきたか正直に喋るものなの」

ハートのクイーンが反対側に現れ、スキットルを差し出した。「島のシングルモルト。わたしが造ってるの。わたしが三十一で、ウイスキーが十一年。女と酒の年の差は、これが正解」。ピートの香りが、雨の中の焚き火のように舌を打った。

「二人は知り合いなのか?」と彼は訊いた。

二人のクイーンは、今夜よりも古い眼差しを交わした。「前にもやったことがあるの」とスペード。「二回ね」とハート。「キングは長続きしないのよ。終わるとふらりと出ていって、会計士と結婚するの」

「わたしの名前を教え――」ハートが言いかけ、スペードがタコのある二本の指をその唇に横たえた。許可は求めなかった。自分で払うと決めた罰金だった。「真夜中を過ぎてから」とスペードは言った。「名前は追加料金よ」

バーの上では、青銅の船時計が、誰もが気にかける唯一の時刻へ向けて時を刻んでいた。11時58分。ジャックと九は奥のソファと互いとを占領済みだった。ハウスはスイッチパネルの前に立っていた。弓が持ち上がるのを見守る指揮者のように。

「エレベーター、最終案内よ」とハウスが言った。誰も動かなかった。雨がガラスに糸を縫う。アドリアンの鼓動は時計より大きく鳴っていた。

「真夜中」とハウスは言い、明かりを落とした。

完全な闇にはならなかった――この街が許さなかった。金色の光が街路から立ちのぼり、肩に、輪郭に、掲げられたスキットルの縁に横たわった。すぐ近くでシルクが動いた。ガラス越しの薄明かりの中、二つの手が彼の手を見つけた。片方はタコのある手、片方はウイスキーのように温かい手。そして唇が耳をかすめた。

「ルールその四よ、キング」と彼女は囁いた。「わたしたちに、訊いて」