← 終わりの地図製作者

第2章依頼

Ilse Novak · 583文字 · 日本語

銀貨は机の上で一度だけ澄んだ音を立て、それきり動かなかった。百年ぶんの親指に撫でられて薄くなった銀で、もう存在しない国の紋章が刻まれている。彼はその紋章を知っていた。その国の終わりを赤いインクで描いたのは、彼自身だった——最後の国境がほどけた、あの年に。

「わたしが終わる場所を、地図に描いてほしいの」と少女は言った。

店の窓から差し込む午後の光が、道のように床板を横切っていた。少女はその光の帯の中に立っていた。外の風に、指の節はあかぎれて赤い。彼女は両手を腰の前で組んでいた。手放すのが怖いものを抱えている人間の、あの持ち方で。

彼は銀貨に触れなかった。まわりの壁には、蛾の標本のように彼の仕事が留めてあった。塩の道の終わり——四十リーグの石畳が、一つの砂丘の下で力尽きた場所。ある結婚の終わり——一つの谷を分かち合い、やがて分かち合わなくなった二本の川として描かれたもの。ある戦争の終わり——それは一枚の野原で、草に還りつつあった。

「私が描くのは、物事の終わりだ」と彼は言った。「道。戦争。紙が良ければ、約束も。人は描かない」

「頼みに来る人はいるでしょう」と少女は言った。

「来るとも。酔漢が来る。妻を亡くした男が来る。ある王はまだ生きて流通している金貨を櫃ごと寄越したが、送り返した」彼は指一本で銀貨を裏返した。死んだ通貨。正しい報酬。それが正しいということが、彼には忌々しかった。

「断るのは、描かれた終わりには辿り着けてしまうからだ」と彼は言った。「描かれずにいる限り、それは見つからずにいる。それがこの稼業のたった一つの慈悲だ。自分が私に何を奪わせようとしているのか、分かっているのか」

「あなたよりも」と少女は言った。「描いて」

どんな地図も、測るための定点を欲しがる。終わりにとって、その定点は始まりだ。「どこで始まった?」と彼は訊いた。「この街で」と少女は言った。「冬に。誰も傷つけなかった、小さな火の中で」

彼は続きを待った。少女は何も足さなかった。十九に見える娘の名指した冬は六十年も昔にあり、それでも彼は書き留めた。ペンがそれを欲しがったからだ。

彼は新しい紙を留め、インクを並べた。取り壊された門の錆色。干上がった内海の灰色。そして細密な仕事のためにとってある煤の黒——決して口にしない、ある火から挽いた黒。手はひとりでにその黒へ伸びた。

これが、師から譲り受けたままの技だった。終わりの地図師は線を考案しない。線に曳かれるのだ。ペンは鷗が水の上へ出てゆくように紙の上へ出てゆき、その下に海岸線が寄り集まった——入江がひとつ、岬がひとつ、広場を見下ろす勾配屋根の連なり。

彼はその広場を知っていた。三画で噴水を据え、その水音に覚えがあった——生涯、毎朝、自分の窓の下で聞いてきた音だ。細い通りを描いた。通り沿いの日除けを描き、擦り減った真鍮の掛け金のついた扉を描き、足に踏み窪められた沓脱ぎの段を描いた。

彼の扉。彼の段。ペンは敷居の上で止まり、そこから毛筋ほども先へは曳けなかった。

少女は一度も紙を見ていなかった。ずっと彼の顔を見ていた。自分の書いた手紙を開く男を見つめるときの、あの目で。

「見えたのね」と少女は言った。見えていた。彼女の終わる場所の地図は、彼自身の家の扉へ至る地図だった。