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第1章第一章 バーの三番目のスツール

夜嵐 · 2147文字 · 日本語

【池悦・彼女】

金曜の夜九時四十分、駱斌からWeChatが届いた。「事務所の連中と川べりで串焼き。先に寝てて」。そのあとにビールジョッキの絵文字。私は「わかった」とだけ返し、スマホをカウンターに伏せて、バーテンにジントニックをもう一杯頼んだ。

このバーは「半拍遅れ」という名前で、会社の裏通りにある。一人で通いはじめてもう半年近い。三番目のハイスツールはほとんど私の指定席で、バーテンの小周は私が入ってくるのを見ると、まずうつむいてレモンを切りはじめる。

私は池悦(チー・ユエ)、二十九歳。保険会社で事務をしていて、毎日保険金請求のシステムに入力し、領収書をチェックし、営業からの電話を受けている。大学院を修了した年、二年付き合った駱斌と籍を入れた。今年でちょうど四年。駱斌は私より二つ上で、設計院で図面を引いている。

結婚一年目はまだそれなりだった。二年目からは、家の百八十センチのベッドは眠るためだけの場所になった。最後にしたのはいつだったか、スマホのカレンダーをさかのぼってやっとわかった。六月の終わり、彼が出張から帰ってきた夜、始まりから終わりまで十分もなかった。いまは九月の終わりだ。

考えなかったわけじゃない。何度か、風呂上がりにわざとブラをつけず、横向きに寝て脚を彼の体にのせた。彼は私のお尻をぽんぽんと叩いて「疲れてる、明日な」と言い、寝返りを打って音量を上げたままショート動画を眺めた。明日は一度も来なかった。

昔の私はかなりお堅かった。大学で付き合っていたとき、彼が初めて私のボタンを外そうとしたら、三十分泣いた。だからベッドのことは、私たちはずっと電気を消して、彼が上で、終わり。人生ってそういうものだと思っていた。体のほうが先に納得しなくなるまでは。

声をかけてくる男はいた。先月も、マウンテンパーカーの男がグラスを持って隣に座り、誰か待ってるのかと聞いてきた。夫を待ってると答えたら、気まずそうに去っていった。本当は誰も待っていなかった。冷蔵庫のうなりしか聞こえない家に帰りたくなかっただけ。

変化は蒋蔓から始まった。ある日の終業間際、私がデスクで「今夜は半拍遅れでちょっと飲もうかな」とつぶやくと、隣の席の蒋蔓が椅子ごとすーっと滑ってきた。「私も連れてってよ。私もむしゃくしゃしてるの」

蒋蔓は三十歳で私より一つ上、引受審査の担当で、離婚歴が一回ある。いつもタイトスカートにポインテッドトゥのヒール、風を切って歩き、社内の男たちは彼女と話すときみんな声が三割やわらかくなる。それまであまり親しくはなかった。知っていたのは、昼休みに彼女が一度も席にいないことだけ。

それ以来、金曜日は私たち二人のものになった。彼女はロングアイランド・アイスティー、私はジントニック。彼女は元夫の話をし、私は駱斌の話をした。三回目の金曜日、私はとうとう「三か月」のことを口にした。

「三か月?」蒋蔓はストローを噛みつぶした。「池悦、あんたまだ二十九でしょ。なに未亡人みたいな暮らししてんの」

「単に興味がないのよ。押さえつけるわけにもいかないし」

「じゃあ押さえつけなきゃいい」彼女が身を寄せてきた。すごく甘い香水の匂いがした。「お姉さんが男遊びに連れてってあげる」

私は吹き出して、飲みすぎだと言った。彼女も笑い、爪で私のグラスをこつんと叩いた。「したいかしたくないか、それだけ言って」。私は答えずに、残りの半分を一気にあおった。氷が歯に当たって、冷たさにぶるっと震えた。

【汪野・彼】

蒋蔓からメッセージが来たとき、俺はジムで着替えていた。「来週の金曜、半拍遅れ。会わせたい人がいる。結婚四年、旦那は触れもしない、本人は自分がどれだけ欲しがってるか気づいてもいない」。そのあとに横から盗み撮りした写真。うつむいてスマホを見ている女、白いシャツは第二ボタンまで留めて、首が長い。

俺は三十二、建材の商売をしている。蒋蔓は二年前から俺の女だ。本人もそれは認めている。あいつが連れてきた女は何人か見た。たいていは心の中がとっくに緩んでいて、誰かがひと押しするのを待っているだけだった。写真のこの女を、俺はしばらく眺めていた。

【池悦・彼女】

次の金曜、蒋蔓の隣に男が一人増えていた。背が高く、坊主に近い短髪、黒いTシャツの袖が腕にぴんと張りつき、手首には古いステンレスの腕時計。蒋蔓が言った。「汪野、友達」。彼は私に軽くうなずき、「池悦」と呼んだ。姉さんも、ちゃんも付けずに。

口数は少ないのに、どんな言葉もちゃんと受け止める。保険の事務なんてただのタイピストだと言うと、一分に何文字打てるのかと聞く。百二十と答えると、じゃあ指がずいぶん器用なんだなと言った。言いながら私の手をちらりと見たので、なぜか私は手をカウンターの下に引っ込めていた。

蒋蔓は化粧直しにトイレへ行き、そのまま二十分戻ってこなかった。汪野はこちらに寄ってこず、自分のウイスキーを少しだけ押してよこした。「飲んでみな。あんたのより効くぞ」。ひと口含むと、辛くて思わず眉をしかめた。彼は笑った。笑うと目尻に細いしわが二本できた。

週末はふだん何をしているのかと聞かれた。寝て、ドラマを観て、夫の実家にごはんを食べに行く、と答えた。彼はうなずいて言った。「じゃあ今日出てきたのは、何か別のことがしたいからだ」。疑問形じゃなかった。私は言い返さず、うつむいてストローで氷をかき混ぜ、からんからんと鳴らした。

その夜は二杯半飲んだ。顔は熱いのに、頭ははっきりしていた。十一時過ぎ、蒋蔓がいきなりスマホをテーブルに叩きつけた。「池悦、今夜汪野とホテル行く度胸ある?」

私は固まった。汪野は加勢もしなければ、取りなしもしない。ただ私を見て、私が自分で口を開くのを待っていた。

「度胸ないならいいのよ」蒋蔓が語尾を伸ばした。「どうせ家に帰っても、旦那の後頭部を眺めるだけなんだし」

その一言が刺さって、顔がかっと熱くなった。駱斌の「先に寝てて」を思い出し、家のあの百八十センチのベッドを思い出した。自分の声が聞こえた。「行くわよ」。口から出た瞬間、心臓がどくどく鳴った。でも一言も取り消したくなかった。

ずっとあとになって知った。あの夜の挑発は、二人が前もって打ち合わせていたものだった。でもそれはあとの話。その夜の私は、自分の身分証を握りしめて、彼について角のホテルに入った。

部屋は1206、明かりは暖かい黄色だった。私はベッドの端に座り、指にバッグの持ち手を巻きつけていた。汪野はシャワーから出てくると、グレーのショートパンツ一枚で、胸と腹の線がくっきりと浮いていた。

「怖いか?」と彼が聞いた。

「少し」正直に言った。「こういうこと、したことないの」

彼はふっと笑って、明かりをベッドサイドのひとつだけにし、布団をめくって横になり、隣をぽんぽんと叩いた。「じゃあ今日は寝るだけだ。あんたがうなずかないうちは、手は出さない」

【汪野・彼】

彼女は服を着たまま横になった。シャツのボタンはひとつも外さず、体は洗濯板みたいにこわばっていた。後ろから腰に腕を回すと、びくっと震えたが、逃げなかった。

俺は勃っていたし、隠すつもりもなかった。ショートパンツ越しに彼女の尻に押し当てた。気づかないはずがない。呼吸が一気に乱れた。それでも彼女は前へずれなかった。むしろ、ほんの少しだけ後ろへ寄ってきた。

耳元で「寝な」と言って、本当にそのまま抱いているだけで、じっと動かなかった。こういう女は、最初の夜に飛びかかったら翌日には逃げる。自分から戻ってこさせなきゃならない。

【池悦・彼女】

ほとんど一晩じゅう眠れなかった。彼の腕が重たくお腹の上に横たわり、あれが私のお尻の割れ目に押し当てられていて、茹でたてのトウモロコシみたいに熱かった。私は脚を閉じていた。ショーツに小さな染みができていて、自分でも信じられなかった。

朝六時半に彼がシャワーに行き、私は靴を履いて先に出た。タクシーで窓を下ろすと、風が襟元に吹きこんできて、そこで初めて、自分がずっと笑っていたことに気づいた。

家に帰ると駱斌はまだいびきをかいていて、ローテーブルには食べ残しの串が散らばっていた。私が一晩どこにいたのか、彼は一度も聞かなかった。

木曜の午後、蒋蔓がDingTalkで私をつついてきた。「明日いつもの場所。彼も来るよ」。私はその一行を見つめて、「行かない」と打ち、消して、「何時?」と打ち直し、送信を押した。